プッシュ型とも呼ばれる企業主導のアウトバウンドマーケティングは、近年のテレビ離れや広告嫌いの傾向から、消費者はもちろん、企業の顧客も引きつけにくくなったと言われています。確かにインターネットをはじめとする情報源が増え、自ら商品やサービスを選びやすくなった顧客に押しつけがましい広告は煙たがられることも多いようです。そんな中、近年注目を集めているのがインバウンドマーケティングです。インバウンドマーケティングとは、企業側が提供するコンテンツによって共感を醸成し、顧客自らが起こす購買行動を期待するマーケティング手法です。今回はそんなインバウンドマーケティングの概要からアウトバウンドマーケティングとの違い、そのプロセス(手法)などについて解説していきます。
インバウンドマーケティングは、2006年にアメリカのHubSpot社が提唱したマーケティング手法です。このマーケティング手法のベースには「Providing value before extracting value」という考え方があります。これは直訳すると「相手から価値を受け取る前に、価値を提供する」となり、相手(顧客)から価値(金銭、または利益)を受け取る前に、価値(有益な情報、コンテンツ)を提供するという意味になります。つまりインバウンドマーケティングとは、企業が積極的に商品やサービスを売り込むのでなく、顧客に商品やサービスを見つけてもらい、有益な情報を提供することにより自発的に購買行動をして貰う「顧客主導のマーケティング手法」だと言えます。企業が有益な情報を顧客に提供し続けることで双方に信頼関係が生まれ、顧客からの信頼感が高まれば顧客が必要とするタイミングで自然とリード顧客やロイヤルカスタマーとなる可能性が上がるというわけです。
一方、従来のように企業側から商品やサービスに関わる情報を広告や営業という形で顧客に提供するマーケティング手法を、アウトバウンドマーケティングといいます。アウトバウンドマーケティティングは、各種広告(新聞、雑誌、テレビ)やダイレクトメール、訪問販売、展示会といった、顧客へのプッシュ型の情報提供であり企業主導のマーケティングと言えます。
ただし冒頭でも書いたように、企業が積極的に商品やサービスの情報を届けるアウトバウンドマーケティングは消費者や顧客に煙たがられることも多くなっており、広報や営業活動の効果が出ないばかりでなく嫌悪感を発生させてしまうことがあるとも言われています。特に一般消費者の場合、この傾向は若年層で顕著に見られるので、若年層向けの商品やサービスを扱っている場合には特に注意が必要です。以下にインバウンドマーケティングとアウトバウンドマーケティングの違いを簡単にまとめてみました。
インバウンドマーケティングの利点としては、顧客はサービス提供側からの一方的な情報提供から逃れることができる点、サービス提供側も顧客の必要とするタイミングでコンタクトできるようになるという点がまず挙げられます。顧客が商品やサービスを必要として自ら動いたタイミングで商品などを提供できれば、成約率は飛躍的に上がるからです。
また情報提供(広告)や顧客獲得にかかるコストも、インバウンドマーケティングの方が低くなる場合が多いと言われています。この点はROIを考えれば重要なポイントです。顧客が商品やサービスを必要としていない時(もしくは必要としているかわからない時)に高額な広告宣伝費をかけるより、顧客が必要とするコンテンツを準備し自律的な購買行動を待つ方が効率的なのです。
インバウンドマーケティングの利点やアウトバウンドマーケティングとの違いは上記の通りですが、なぜそもそもインバウンドマーケティングは必要になったのでしょうか?それには大きく2つの要因があると言われています。
60代以下のスマートフォンの普及率は90%を超え、ECサイトで物を購入した消費者も世帯数では半数を超えています。スマートフォンを使ったインターネット経由の買い物が定着し、消費者の購買行動は大きく変化しているのです。
ECサイトで買い物をするときに、消費者がする行動はまず「検索」です。消費者が必要としていない押しつけがましい広告はほとんど意味をなさず、しっかりとしたSEO対策をして消費者に見つけて貰うことがビジネス成功のカギとなっているのです。そして自社サイトには、消費者が必要としているコンテンツや商品をあらかじめ用意しておくことが何より重要です。
新型コロナウィルス感染症の影響で、企業のマーケティング活動は大きな影響を受けました。対面の営業活動や展示会などは制限され、顧客とのコミュニケーションは自社サイトやSNSが中心となったのです。既に感染症関連の制限は緩和されていますが、スマートフォンの普及も相まって顧客はこのコミュニケーション方法を当然のこととして受け入れています。また企業もコストのかかるアウトバウンドマーケティングより、双方向のコミュニケーションで効果測定がしやすく、DXとも相性の良いインバウンドマーケティングを採用するに至ったのです。
では具体的には、どのようにインバウンドマーケティングを進めていくのでしょうか?簡単にその進め方を説明しておきましょう。
SEO対策やWeb広告で、顧客を自社サイトやブログ、SNSに誘引。見込み顧客とのタッチポイントを設ける。
Web広告やブログ、SNSから自社サイトに誘導した顧客に、サイトの記事閲覧やホワイトペーパーのダウンロード、メルマガやセミナーの申込みを行って貰う。自社サイトには、あらかじめ申込みフォームなどを準備しておく。
自社サイトから各種コンテンツをダウンロードしてくれた顧客やセミナーに来訪してくれた顧客はリード顧客として扱い、リード育成(リードナーチャリング)を行う。具体的にはメールマーケティングやインサイドセールスによるフォローで関係性を維持していく。
メールマガジンによるブランド情報の発信や特別キャンペーンの案内、継続的なコミュニケーション、特別な顧客体験の提供などで、リード顧客のファン化(ロイヤルカスタマー化)を進める。
インバウンドマーケティングを世界で初めて提唱したHubSpot社は、インバウンドマーケティングが得意なビジネスツールのHubSpotを展開しています。HubSpotは世界120ヶ国以上で78,700社に導入されており、世界中で愛用されている人気の高いツールでもあります。
HubSpotには顧客情報の一元管理ができ、全チームが共通で使用するHubSpot CRM、インバウンドマーケティングのオールインワンツールMarketing Hub、営業支援に特化したSales Hub、コンテンツ管理を行うCMS Hubなど、インバウンドマーケティングを実現できる多くのツールが用意されています。またそれぞれのツールには無料で使用できる機能が多数用意されているので、まずは無料のお試しで、そして事業規模の拡大に応じて有料プランを追加していくのがおすすめの使い方です。
HubSpot社には「フライホイール」という考え方があり、同社はこれをインバウンドマーケティングを推進し、素晴らしい顧客体験を実現する効率的な方法だと考えています。
有益なコンテンツで訪問者を呼び込み、訪問者がスムーズに自社の情報を収集できるよう妨げとなる要因を取り除く段階がAttractです。有料なコンテンツを用意し、適切なSEO対策やSNS、ターゲティング広告などで訪問者を呼び込み、自社の存在と商品やサービスなどについて知ってもらいます。
コミュニケーションのタイミングやチャネルを顧客に合わせ、製品やサービスを購入しやすくする段階がEngageです。パーソナライズされたEメールやマルチチャネルでのコミュニケーション(チャット、電話、SMS、DM)を通じて、リードナーチャリング(見込み客の購買意欲醸成)を実施します。
顧客の目標達成を的確に支援する段階がDelightです。顧客の目標達成(満足)は言ってみれば「顧客にとって価値あるものの獲得」、すなわち自分が必要とするものの購入ですが、これは自社の目標達成(成功)と同じものだと考えることが重要です。顧客のDelightを達成するために、HubSpotではチャットボットやチケット管理システムなどを用意しています。
HubSpot社は、このフライホイールという考えに準じて数多くのツールを用意しています。顧客の考え方や行動が大きく変わった現在、アウトバウンドマーケティングのままではリードの獲得は難しくなるばかりです。インバウンドマーケティングが得意なHubSpot社とそのツール群。まずは無料の機能から試してみませんか?